火にあたろ。

火を眺めながら、ゆったり過ごす日々の徒然。料理、本、映画をそえて

生け贄をいただく ~インドの思い出~

大学の頃、インドへ行った。

インドは高校生の頃からあこがれていた。

きっかけは瀬戸内晴美の『インド夢幻』という文庫を読んだことだったと思う。

混沌としたイメージ、仏教発祥の地、すべてを受け入れてくれそうな懐の深さ…、インドという国に対して勝手にそんなイメージを抱き、行きたいと思った。

親から20万ほど借りて(返していないが…、お父さんお母さん、ありがとう)、バックパックで出かけた。

インドをあちこち回っているとき、あるインド人と出会った。

そのインド人に連れられて、あるお祭りに参加した。

お祭りといっても地元の男たちが数人集まって行うささやかなものだ。

ヒンドゥー教の女神ドゥルガーに生け贄を与える儀式だった。

生け贄は、山羊。

一頭の山羊がつれられてきたかと思うと、祭壇の前で、一人の男の手により素早く首を切られた。おそらく包丁か刀のようなもので切ったのだろうが、そこはよく覚えていない。

手際があまりに鮮やかだった。

目を背ける暇もなかった。

胴体から首が離れた瞬間をぼうぜんとみていた。

それから、数人の男たちは、僕がみている前で、犠牲になった山羊の皮を素早くはぎ、解体していった。

すぐそばに川が流れており、そこで、山羊の細長い腸から老廃物を押し出していく様が見事だった。

それから鍋にさまざまな香辛料を入れ、カレルーを手作りすると、山羊の肉を入れて炒めていった。

男たちはおしゃべりすることもなく黙々と流れるように作業しており、それは本当に見とれてしまうような、誤解を恐れずにいえば、美しい手仕事だった。

できあがったマトンカレーを僕にも分けてくれた。

そのおいしかったこと。

まさに「(お命を)いただきます」と心より思った瞬間だった。

味は格別。

本当に、本当においしかった。

あれに勝るカレーは今後も食べられないと思う。

味だけではなく、犠牲になった山羊への感謝の念、男たちの流れるような手仕事のすばらしさ、そんなものがスパイスになっている。

食べることって、命をいただくことなんだよな、僕にとっては、そんなことを思い出させてくれる思い出の1シーンです。

 

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